研究代表者はショウジョウバエで内胚葉形成の分子機構の解明を目指して、内胚葉で形成の初期段階から発現する遺伝子A7-123をエンハンサートラップ法で同定し、クローニングした。本研究はA7-123エンハンサートラップ系統に挿入されたトランスポゾンを利用してA7-123遺伝子の突然変異体を分離し、その表現型から遺伝子の機能を明らかにすると共に内胚葉形成の遺伝子カスケードにおけるA7-123遺伝子の位置づけをすることを目的とした。 ショウジョウバエの内胚葉を形成する胚末端部の領域はtorso受容体チロシン・キナーゼ、Ras、Raf、MAPKK、MAPKを介したシグナル伝達系によって決定されることが知られている。torso突然変異胚におけるA7-123遺伝子の発現をwhole mount in situ法で調べてところ、発現は見られず、多くの内胚葉形成遺伝子と同様、torso受容体チロシン・キナーゼに始まるシグナル伝達系の下位にあることが判明した。 突然変異体の分離にはA7-123エンハンサートラップ系統へのP因子転移酵素の導入により、A7-123遺伝子に挿入されたトランスポゾンの再転移を誘導し、その結果A7-123遺伝子が位置する第2染色体右腕、52F染色体領域が欠損する胚性致死の系統Df(2R)JP-7を相補しなくなった系統を検索した。約300系統を検索し、そのような系統が1つ得られた。この系統(89a)ではA7-123遺伝子の発現は検出されず、遺伝子の機能が失われていると思われる。その表現型は頭部形成に異常を示す胚性致死であったが、A7-123遺伝子が、内胚葉形成の早い段階から発現しているのにも関わらず、89a系統では内胚葉の形成異常は胚発生の後期になって始めて観察された。今後は分子マーカーなどを用いて表現型をより詳細に調べると共に、89a系統がA7-123遺伝子の単一突然変異であるか否かを解析している。
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