今回の研究は新たに得られたセリンプロテアーゼ遺伝子cDNAのB59より、プローブを作成し、in situ hybridization法を用いて、マウス脳内の局在を検討することにある。 RT-PCR法によりマウスにおけるB59の組織分布を検討したところ、ラットで報告のある脾臓、肺において遺伝子の増幅が見られた。また、これまで報告のなかった前脳部、小腸、子宮にB59の増幅が見られた。 成獣マウスの脳より前額断切片を作成し、in situ hybridizationに供した。その結果、陽性シグナルを視床下部、海馬を中心とした辺縁系に認めた。詳細な観察により、陽性細胞は、視床下部においては、視索前野、室傍核、室周囲核、弓状核、腹内側核、外側核に認められた。また、海馬錐体細胞層CA1-CA3領域、内側および中心扁桃核、分界条床核にもシグナルが認められた。 個体発生学的検討を行うために、胎生9日より成体までの各ステージにおいてマウスの切片を作成し、B59によるin situ hibridization法による観察を行った。胎生10-12日の胎児には陽性シグナルは認められなかったが、胎盤および母体の子宮壁に強いシグナルを認めた。胎生18日においては成体でB59陽性が見られた視床下部をはじめとするすべての領域で、陽性シグナルが見られた。加えて、内分泌器官である松果体、下垂体前葉にも強いシグナルが見られた。松果体、下垂体前葉においては器官の発達につれて発現は弱くなり成直後には発現が見られなくなったが、脳内のシグナルについては、上述のように成体においても発現を続けていた。
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