これまで哺乳類における遊離型およびタンパク質中のアミノ酸は、すべてL-体から構成されていると考えられてきた。しかし最近、哺乳類組織中に遊離型D-アスパラギン酸とD-セリンが存在することが明らかとなり、哺乳類においてD-アミノ酸が機能している可能性がでてきた。そこで、本研究ではD-アスパラギン酸に対する特異期な抗体を用いて脳や副腎におけるD-アスパラギン酸の局在および発達段階における局在の変化を光学顕微鏡レベルで検討した。すでに、生化学的手法によりラットの生後3週令の副腎に最も高濃度のD-アスパラギン酸が存在することが明らかになっていることから、3週令の副腎の免疫組織化学的検討を行ったところ、副腎髄質に強いD-アスパラギン酸免疫反応が見られ、副腎皮質にはほとんど見られなかった。副腎髄質には、エピネフリンやノルエピネフリンを多量に含んでいることから、D-アスパラギン酸はこれらの産生や遊離と関連している可能性があると思われる。一方、生後1日ラット脳においてはsubventricular zoneおよびこの層から大脳皮質の上層に向かって移動している細胞群に中程度の免疫反応が見られた。また、生後4日では視床下部第3脳室に接するある細胞群に強いD-アスパラギン酸免疫反応が見られた。これらの結果から、D-アスパラギン酸は脳において、神経細胞の移動・大脳皮質の形成あるいは視床下部においては種々のホルモンや神経伝達物質の産生や遊離と関連している可能性があると思われる。D-アスパラギン酸による遺伝子発現の変化(Differential display法)の解析は、現在検討中である。
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