快・不快情動が発現する際の脳活動の動態を分子レベルで解明することを最終的な目標とし、その出発点として、オピオイドリガンドのオピオイド受容体活性化能をクローン化したカリウムチャネルとアフリカツメガエル卵母細胞蛋白質発現系を用いることで解析した。さらにこの結果を鎮痛効果測定装置を用いた行動薬理学的解析に応用することを試みた。まず第一に、オピオイド受容体、ノシセプチン受容体がカリウムチャネル(mGIRK1)とカップリングすることを明らかにした(研究発表1、2)。次にこのカップリングを利用して、各種内在性オピオイドリガンド(ノシセプチン、メチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、βエンドルフィン、ダイノルフィン)のノシセプチン受容体、μ、δ、κオピオイド受容体の全てに対する受容体活性可能を検討した。その結果、ノシセプチンがノシセプチン受容体に高い選択性を示すのに対して、他のリガンドはノシセプチン受容体以外の受容体に対して比較的選択性の低いアゴニストとして作用することが明らかとなった(研究発表1)。さらに各種シグマリガンド(SKF10047、シクラゾシン、3PPP、DTG、カルビタペンタン、ハロペリドール)の受容体活性可能を検討した結果、シグマリガンドのいくつかは受容体に対してアゴニストあるいはアンタゴニストとして作用することが明らかとなった(研究発表3、4)。これらの生体外実験系で得られた結果を行動薬理学的解析に応用するため、まずモルヒネによる鎮痛作用を本研究の主要実験設備であるテ-ルフリック鎮痛測定装置を用いて測定した。モルヒネの投与量に従い鎮痛作用が定量的に解析できた。今後は、各種のリガンドをマウスに投与して鎮痛作用を測定し、生体内で鎮痛作用が発現する際にどの種のオピオイド受容体がどの様に関与しているのかを明らかにする予定である。
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