カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMキナーゼII)の脳、神経系特異的な発現制御メカニズムを明かにするために、トランスジェニックフライを用いた解析を行い、これまでに転写開始点上流については500塩基対あれば十分であることを明かにしてきた。本年度はこの領域についてさらに培養細胞を用いたルシフェラーゼアッセイを行うことにより、この領域での転写活性化能を調べた。その結果、上流100塩基対付近にある、欠失すると著しく転写活性が低下する領域が存在することを明かにした。トランスジェニックフライでの解析でも、この領域を含まない個体では、レポーターとして用いたlacZ遺伝子の発現が見られないことから、この領域はCaMキナーゼII遺伝子の転写活性に必須な制御配列の一つを含むものと考えられた。ショウジョウバエを利用した組織特異的転写制御領域の解析に有効な手段の一つとして、2種のショウジョウバエ、D.melanogasterとD.virilisのゲノムDNAの遺伝子配列の比較を行い、進化上保存されている塩基配列を捜すという方法がある。この方法を採用し、D.virilisのCaMキナーゼII転写開始点付近をコードするゲノムDNAをPCR法により単離し、両者の遺伝子配列の比較を行った。両者遺伝子は、アミノ酸配列では非常に良く保存されているが、塩基配列ではかなりの相違がみられた。それにもかかわらず、転写開始点近傍では上流領域だけでなく、転写開始点下流にも複数の、進化上よく保存された塩基配列モチーフがあることを明かにした。他の遺伝子での研究成果より、転写開始点近傍での保存されたモチーフには、その遺伝子の発現様式に重要な影響をもつ配列が存在する可能性が高いと考えられ、今後さらにこれらのモチーフをそれぞれ単独で欠失させたときの影響を個体レベルで解析し、CaMキナーゼII遺伝子の脳神経系での発現制御機構の全貌を明かにしたいと考えている。
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