本研究においては、神経回路形成、特に軸索ガイダンスに関与する因子の単離同定を目的としてマウス嗅上皮組織断片を材料とするDifferential Display法を行った。そして本年度、部位特異的な発現パターンを示す遺伝子断片の単離および解析が行われ、さらにin situハイブリダイゼイション法を用いて単離遺伝子の発現パターン解析も試みられた。 異なる発現パターンを示す遺伝子をDifferential Display法を用いて効率よく単離するためには、比較するmRNAの質が非常に重要となってくる。そこで本研究においては、嗅覚受容体の発現パターンにより分けられた嗅上皮の四つのゾーンのうち、ゾーン1とゾーン3、4の組織断片をmRNAの採取材料として選択した。ゾーン2を含まないように採取位置を設定することにより、確実に発現の差異を検出しうるmRNAの質を確保することに成功した。その結果、現時点で12種類の遺伝子断片を単離し、そのうち9種類が未知の配列を持つものであることが見いだされた。既知の遺伝子として、ケラチンの一種であるendoB、プロスタグランジンE2受容体サブタイプであるEP3、およびゾーン3、4に相当する部位においてはのみ発現していることがラットにおいて報告されているRYA3の3種類がいずれもゾーン3、4より見いだされた。特に、RYA3を単離できたことから、本研究においてDifferential Display法が確実に機能している傍証が得られた。現在、得られた未知遺伝子を発現している細胞種を同定するためにin situハイブリダイゼイション法を用いた発現パターン解析を試みている。今後、より多くの遺伝子断片を単離すべくDifferential Displayを行うとともに、嗅細胞において発現する遺伝子の全長配列の決定を行う。
|