「対象が何であるか」の記憶、すなわち視覚対象の形態の記憶機能には、側頭連合野と前頭連合野が関与していることが、これまでのサルを用いた神経心理学的及び神経生理学的研究から示されてきている。しかしこれまでに、2つの連合野の形態記憶における機能差は明らかにされていない。本研究の目的は、記憶の「情報を書き込み(記銘)」、「保持し(保持)」、「情報を引き出し(想起)、行動に結びつける」という各過程を時間的に分離した課題をサルに学習させ、側頭連合野及び前頭連合野の神経細胞の活動を記録・解析することで、2つの連合野の形態記憶における機能差を解明することである。 課題では、サルが手元のレバ-を押すと、モニターに見本刺激と参照刺激が第一遅延時間を挟み提示される。さらに第二遅延期の後、画面に反応開始の合図が映し出される。サルが、参照刺激が見本刺激と同一なら右のボタンを、異なっているときには左のボタンを押すと報酬がもらえる。2つの遅延期の導入により、上記の3つの過程が分離できる。刺激には側頭連合野の神経細胞の応答を引き起こしやすい自然物の写真を用いる。 本年度は先ず、実験に必要な装置および課題のプログラムを開発した。サルの眼球位置を正確に記録するため、実験中にサルの位置が動かないことが必要である。このため、従来のモンキー・チェア-より頑丈且つ重いチェア-を設計・作成し、50キログラム以上ある特殊な台に固定することで、正確な眼球位置の記録を可能とした。さらに、刺激に用いる写真をビデオボードを用いてデジタル化して作成した。また、刺激の大きさを変え、モニター上の様々な位置に提示可能なプログラムを作成し、これまで明らかにできなかった覚醒状態での視覚応答の受容野の測定を可能にした。現在2頭のサルが訓練されている。今後研究を継続し、データを増やして行く。
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