ラット体性感覚野にはバレルと呼ばれる細胞が樽状に密集し口蓋周辺に存在する髭に対応した構造が生後1週間の間に形造られる。視覚野で眼優位性コラムが形成される過程においては胎生期に視床線維と大脳皮質の灰白質と白質の境界に存在するサブプレートニューロンとの間に一過性に神経結合が造られることが重要であるとされているが、ラット感覚野で胎生期において視床線維が機能しうる神経結合を形成しているのかに関しては不明であった。そこで胎生期のラットを用いて視床-大脳神経結合を維持した脳切片標本を作製し光学的計測法によりシナプス応答が観測されるか検討した。その結果、胎生18日まではシナプス応答は大脳皮質内では観測されず、19日目以降に持続時間の非常に長いシナプス応答がまず大脳皮質深部に観測されはじめ、出生直前には大脳皮質全体に広がるようになった。大脳深部に見られた応答は、BrdUを用いてサブプレートを同定した結果、応答が見られた領域と、サブプレートは一致していた。また大脳から視床へ投射する細胞を逆行性に染色した結果胎生期では殆ど見つからないことから、電気的に刺激された神経線維は視床由来のものであり、大脳-視床投射由来のものではないことが示唆された。この結果は視床からの神経線維が胎生期に既に機能しうるシナプスをサブプレートにおいて形成していることを示唆している。胎生期にシナプス応答が観測されたという事はサブプレートニューロンの機能的な役割を考える上で非常に興味深い実験結果であり、バレル或いは感覚野マップ形成に胎生期の神経結合が何らかの役割を担っている可能性が考えられる。
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