研究概要 |
本研究で使用した脱毛症マウス系統C3H/HeN-Barは、当実験動物室で維持していたC3H/HeN系統のコロニーに発見された縮れ毛の個体より育成したものである。この脱毛および縮れ毛の形質は、C3H/HeN系統との交配試験の結果、常染色体上の単一の半優勢遺伝子(Bare,Bar 仮名称)によって引き起こされていることが判明した。ホモ個体(Bar/Bar)の場合には、出生後、最初に生えてくる毛が既に著しく縮れており、成長とともに脱毛して、生後30日頃には完全に禿げになることが判った。また、ヒゲの形態についても、出生時で著しく縮れていた。皮膚の状態は比較的なめらかで、炎症や著しい角化は認められず、表皮の角化細胞の異常ではないと予想された。ヘテロ個体(Bar/+)では縮れ毛となるが、その程度は個体により異なっていた。ホモ個体の皮膚を光顕および電顕で調べたところ毛包の内根鞘のハックスレ-層とヘンレ層を構成する細胞に異常を認めた。さらに、マウス毛包ケラチンに対する抗体により免疫組織学的に調べたところ、内根鞘の抗体陽性細胞の形態が著しく乱れているのが観察された。次にC3H/HeN-Bar/BarとBALB/cA系統との間で集合キメラマウスを作製した。キメラ個体では、体全体が縮れ毛となる個体や一部に縮れ毛を持つ個体が得られた。ヒゲについても異常に曲がったヒゲと正常な形態のヒゲを持ったキメラ個体が得られた。体全体が縮れ毛となったキメラ個体では、生後30日で部分的な脱毛が観察された。以上の結果から、C3H/HeN-Barにおける脱毛症は、ホルモン等の全身的な液性因子の異常ではなく、毛を形成するハードケラチン合成細胞の分化および機能に異常があると考えられる。
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