現在、耳鼻科においては、中耳炎、真珠腫等により失われた鼓膜の再建が課題となっている。しかし、鼓膜は機械的複合構造体であり、従って鼓膜自体の機能的・構造的な力学特性を調べ、変形から破壊に至るメカニズムを解明し普遍化しなければ、良好な臨床結果を得ることが困難である。以上の観点から、本研究では鼓膜の破壊過程やその際の構造的・力学的作用について、豚生体鼓膜を用いた圧力負荷破断試験などを行い、鼓膜の機能的・構造的力学特性を調査した。 航空機への搭乗やスキューバ・ダイブ等、比較的変化の緩やかな外圧を長時間受ける場合を想定した圧力クリープ試験では、介達性鼓膜破断が時間依存型の発生形態をとることが示された。また、中耳腔の未発達による嚥下効果や鼻すすり等を想定した繰り返し陰圧負荷試験(圧力疲労試験)においては、生体鼓膜には繰り返し圧負荷に対して耐久限が存在し、強度劣化の度合いには限界があること、従って疲労圧による劣化は鼓膜の構造的な破壊が原因であるとの結果が得られた。別に行った調査では、圧力負荷時の鼓膜に生じる歪分布が特異な部位に集中すること、その部位が介達性破断の集中発生する部位に一致することが確認され、先に行った幾何学的簡易シミュレーションの結果と一致した。ちなみに陽圧時においては鼓膜は歪を均等化する線維構造を有していることが確認されており、これらのことから鼓膜の線維構造、特に円周報告線維の走行は、陽圧対応型の後天的要因によるものと思われた。
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