本研究は海産甲殻類の一種であるクルマエビを用いて、硬組織を構成するタンパク質および硬組織形成に調節するタンパク質をコードする遺伝子を数多く単離し、その中から石灰化に関与するタンパク質を見つけることを目的としている。そのために甲殻類の、外骨格を形成する時期(脱皮期)およびしない時期(脱皮間期)がわかれている、という特質を利用し、二つの時期に表皮細胞で発現されるmRNAをdifferential display法(以下DD法と略)を用いて比較することにより外骨格形成期にのみ発現されるmRNAを先ず同定し、次にそれらmRNAのコードするタンパク質の構造と機能を調べる予定である。現在までに、脱皮ステージごとに分けた表皮サンプルを用いてDD法によるmRNA種の脱皮ステージ間の比較行ってきたが、実験結果の再現性が悪かったため実験の各ステップの検討を行ってきた。その結果、(1)使用していたPCR機のサンプルスロット間の不均一性、(2)RNA試料からcDNAを調製する逆転写反応、の2つに問題があったことを突き止めた。現在改良した方法によりDD法を継続して行っており、脱皮期特異的に発現されるいくつかのRNA種をすでに見い出している。上記の研究と関連して、クルマエビの表皮において脱皮期に特異的に発現される、エンド型キチン分解酵素(キチナーゼ)cDNAの単離を行った。このキチナーゼは、肝膵臓から単離された2つのキチナーゼのいずれとも構造が異なっており、クルマエビでは組織特異的な複数のキチナーゼが存在することが示唆された。
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