本研究では、発眼期(後期胚期)のシロサケを用いて環境水中のカルシウムイオン濃度と卵黄嚢上皮の塩類細胞との関連を調べることで、塩類細胞におけるカルシウムイオン取り込みの可能性を検討した。 まず初めに、発眼期シロサケの発生に伴うカルシウム含量の経時的変化を調べた。その結果、孵化前のこの時期にはまだ摂餌を開始していないにも関わらず、発生が進むに伴い胚体あたりのカルシウム含量は増加した。このことは、発眼期のシロサケが対外からカルシウムイオンを取り込んでいることを示している。そこで次に、環境水中のカルシウムイオン濃度が卵黄嚢上皮の塩類細胞に及ぼす影響について調べた。受精4週の発眼期シロサケを、カルシウムイオン濃度を0.1mM、0.5mMおよび2.5mMに調製した1mM NaClを含む水で2週間飼育した。卵黄嚢上皮に存在する塩類細胞は、ミトコンドリアに特異的な蛍光色素であるDASPEIを用いて検出した。塩類細胞の大きさは淡水中で飼育を続けた実験群で変化は見られなかったが、飼育水中のカルシウムイオン濃度に依存して大きく変化した。低カルシウムイオン環境(0.1mM)で飼育すると、1週目、2週目ともに細胞は顕著に大型化した。淡水のレベルとほぼ等しい0.5mMカルシウム群では、淡水群との間に差は見られなかった。一方、高カルシウム群(2.5mM)では、1週目で他の実験群と比較して明らかに塩類細胞が小さくなったが、2週目には淡水群と同程度の値を示した。 以上の結果は、低カルシウム環境下で卵黄嚢上皮の塩類細胞が大型化し、細胞の機能が亢進していることを示している。発眼期のシロサケが外部環境からカルシウムを取り込んでいることと併せると、低カルシウム環境下で活性化する卵黄嚢上皮の塩類細胞がカルシウム取り込みの場であると考えるのが妥当であろう。
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