研究概要 |
川で産まれたシロサケは淡水中で発生が進み、孵化後、卵黄吸収を完了して稚魚期に達すると海に降る。淡水から海水へとその生息域を移す稚魚期のシロサケで、鰓の塩類細胞の形態的変化を調べた。淡水中のシロサケでは、鰓にNa^+,K^+-ATPaseに対する免疫活性を有す塩類細胞が1次鰓弁と2次鰓弁上に観察された。この時期のシロサケ稚魚を人為的に淡水から海水に移すと、1次鰓弁上の塩類が大型化すると同時にNa^+,K^+-ATPase免疫活性も上昇したが、2次鰓弁上の塩類細胞は逆に徐々に減少し、海水に3主観馴致したものではほとんどが消失した。従って、1次鰓弁上の塩類細胞は海水中で塩類を排出する海水型、また2次鰓弁上の細胞は淡水中で何らかの機能を有する淡水型の細胞と考えられる。 一方、北洋で大きく成長し成熟したシロサケは、産卵のために母川に戻ってくる。成熟シロサケは、稚魚期の降河回遊とは対照的に、海水域から淡水域へと移動する。そこで遡上に伴う塩類細胞の機能的変化を明らかにするため、遡上期のシロサケで塩類細胞の動態を調べた。北洋を回遊中の未熟なシロサケでは、鰓に発達した海水型塩類細胞が多く認められたが、淡水型の塩類細胞はほとんど観察されなかった。遡上直前の岩手県大槌湾で採集されたシロサケを調べてみると、海水型の塩類細胞はやや小型化し、淡水型の細胞が2次鰓弁上に現れていた。湾で採集した最終成熟期に達したシロサケを淡水及び海水水槽で飼育したところ、淡水に移したシロサケで死亡する個体は見られなかったが、海水中では5日以内にほとんどのものが死亡した。また淡水、海水のいずれの環境水で飼育した成熟シロサケでも、鰓の海水型塩類細胞は著しく減少し、淡水型の細胞が発達していた。従って、シロサケは成熟の進行に伴い徐々に海水適応能を失い、逆に淡水適応能が発達する。このような浸透圧調節機構の切替りが、成熟したシロサケを川に遡上させる生理学要因となているものと推定される。
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