平成8年度は「浸透圧応答型プラスミドpSY10の複製最小領域の決定と外来遺伝子発現系への応用」という研究内容について検討した。 すでに、pSY10の全塩基配列の決定は終了しており、その情報をもとにこのプラスミドがRepA関与の複製をすることが推測されている。そこで、repA遺伝子(1076bp)とその前後領域を含む1535bpDNA断片を大腸菌のベクタープラスミドに組み込み、組み換えプラスミド(PEA:4.6kb Apr)を作成し海洋藍藻Synechococcus sp.に導入した。pSY10を保有するSynechococcus sp.NKBG042902においてプラスミドのキュアリングが成功していないため、プラスミドを保有しない海洋藍藻Synechococcus sp.NKBG15041cを宿主として用いた。結果、一般的に用いられているグラム陰性広域宿主プラスミドがこの宿主内で数コピーであるのに比べ、pEAは約20倍のコピー数保持されることが確認された。 RepA遺伝子の下流域を約260bp、さらに100bp削除したプラスミドをそれぞれ作成し、同様に藍藻宿主内での複製とコピー数を調べた。260bp欠失したプラスミドのコピー数は極端に減少し、これを保持する藍藻の生育もpEA保有藍藻に比べて著しく抑制された。このことより、260bp領域にはプラスミドの安定な複製に必要な領域が含まれていることが示唆された。しかしながら、他のプラスミドで安定な複製に必要であると報告されているような領域とのホモロジーは見られなかった。さらに100bp削除したプラスミド保有藍藻では生育とコピー数の若干の回復が見られたが、pEA保有藍藻には及ばなかった。この領域には複製に負に働く部位が含まれていると考えられた。 RepA遺伝子の上流域には大腸菌のσ^<70>プロモタ-と相同性の高いプロモーター配列がみられた。そこでそのプロモーター領域(Prep)を分離し下流にレポーター遺伝子を導入しプロモーター活性を大腸菌で測定したところ、大腸菌内でも十分働くことが確認された。PrepとRepA、さらにその下流域の複製に安定な部位を含む領域はpSY10の複製最小領域であり、これらを含む組み換えプラスミドは今までにない高コピーベクターとして藍藻での外来遺伝子発現系に有用であることが示唆された。 これらの研究成果は国内・海外の学会にて発表され、投稿論文の準備中である。
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