浸透圧、特に塩濃度に応答してコピー数が変化するプラスミドpSY10の複製には、複製タンパク質をコードするrepA遺伝子とその下流領域に存在する複製を安定化する領域が必要であることを平成8年度に示した。平成9年度では、pSY10上のrepA遺伝子産物(RepA)がこの領域に結合することによって複製が調節されることを明らかにした。即ち、安定化領域には複製を負に制御する領域(m領域)と安定化する領域(p領域)が存在するが、RepAタンパク質がm領域に結合することによってpSY10は高コピー数で維持される。pSY10の複製領域を持つベクターを導入した海洋藍藻Synechococcus sp.NKBG15041cでは、海水・淡水の両条件下で、RepAタンパク質の結合がバンドシフトアッセイにて確認されたが、内在性pSY10を保有する海洋藍藻Synechococcus sp. NKBG042902では、海水条件下で培養したときのみ結合が確認された。RepAタンパク質がm領域および複製開始点に結合することにより複製が促進され、その結果、プラスミドのコピー数が高くなる。NKBG042902では、淡水条件下において、RepAタンパク質の発現量が少ないために、プラスミド複製の開始頻度が抑制されていることが示唆された。さらに、淡水条件下でのみRepAタンパク質の発現が抑制される要因を明らかにするために、淡水・海水条件下で、repA遺伝子のプロモーター領域に結合するタンパク質が存在するかを検討した。結果、淡水下条件でのみNKBG042902のゲノムより特異的に発現し、プロモーター領域に結合するタンパク質の存在が示唆された。このタンパク質の結合によって、プロモーター活性の抑制が、リポーター遺伝子の発現量を指標にした実験によっても確認された。このタンパク質の結合によってプロモーター活性が抑制され、RepAタンパク質の発現が抑えられることにより、最終的にはPSY10の低コピーを引き起こすことが示された。NKBG042902の保有するpSY10は、生息環境である海洋条件下では、通常のRepAタンパク質支配型のプラスミドと同様の複製様式を示すが、ひとたび淡水ストレスを受けると、その情報がホストゲノムを通じて伝達され、コピー数の制御を受ける。これは、今までには報告のない新規な複製制御機構である。
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