わが国で最も多く漁獲されるイセエビ(Panulirus japonicus)の海洋における生活史を理解し、個体群維持機構を解明することを目的として、イセエビ親個体群の生息域からのフィロソーマ幼生の輸送先と分散状況を調査するための漂流ハガキを用いた現場実験(3年間継続予定)を行った。 1.漂流ハガキの放流実験:わが国でイセエビが安定して多量に漁獲される長崎県五島列島において、採集が困難なフィロソーマ幼生を漂流ハガキに置き換えた現場実験を実施した。すなわち、五島列島のイセエビ卵の孵化期に当たる6月下旬から7月末の6週間にわたり、五島列島のイセエビ漁獲量の1/4を占める福江島の南東、崎山沖において同一の5点で1000枚ずつ(1点につき200枚)、漂流ハガキを連続して6回(1996年6月26日、7月5、13、20、23、31日、合計6000枚)放流した。放流点は崎山からほぼ2km沖合で、放流点間の距離は約1kmである。この調査を実施するに当たり、福江市崎山漁協の熊川長吉氏のご協力を得た。 2.漂流ハガキの漂着状況:イセエビの産卵場(福江島の崎山沖)から放流した漂流ハガキは、放流後数時間〜239日(五島列島北部)までに224枚が回収され、漂流中に網などで拾われた4枚を除いて海岸に漂着した(回収率3.7%)。漂着地域は、福江島に漂着したハガキの割合が最も多く(数時間〜206日経過後)、76.3%を占めた。日本海沿岸には2枚、種子島を含めた太平洋沿岸には4枚がそれぞれ漂着し、さらに1枚が東シナ海洋上で回収された。これらの結果は、92年に行った同様な調査の結果(40%が太平洋沿岸に漂着)とは著しく異なることから、海潮流の年々の変動によってイセエビ幼生の輸送先が変化することが示唆され、幼生の回帰メカニズムを検討するためには、次年度以降も同様の調査を継続すると共に、ドリフタ-を用いた漂流経路調査を実施する必要がある。
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