いせえび類の中で、わが国で最も多く漁獲されるイセエビ(Panulirus japonicus)の海洋における生活史を理解し、個体群維持機構を解明することを目的として、イセエビ親個体群の生息群からフィロソーマ幼生の漂流経路、輸送先と分散状況を調査するためのドリフタ-と漂流ハガキを用いた現場実験を行った。 1.漂流ハガキの放流実験:昨年度に引き続き、長崎県五島列島福江島の南東、崎山沖において、漂流ハガキを連続して6回(1997年6月23日、7月5、11、19、23、28日、合計6000枚)放流した。放流点と放流方法は昨年と同様である。漂流ハガキは、放流後数時間〜214日(福江島)までに340枚、ほぼ全てが海岸に漂流して回収された(回収率5.7%、昨年度に較べポイント上昇)。漂着地域は、昨年度同様にほとんどが福江島あるいは五島列島内で、五島列島周辺の海水の滞留傾向が継続していることが示唆された。 2.ドリフタ-の漂流実験:放流ハガキの放流実験からでは不明な漂流経路を調査するために、人工衛星で位置情報の得られるアルゴス送信機を装着したドリフタ-3台を漂流ハガキと同様の崎山沖で放流した(1997年7月28日:2台、8月30日:1台)。また、3台のドリフタ-には2mX5mの抵抗板が表層(2台)と30m深(1台)にそれぞれ付けられている。3台のドリフタ-は、抵抗板の位置が異なっているにもかかわらず、全て南東方向に漂流し九州西岸に近づくと北西に向きを変えて、20〜25日で五島列島沿岸に回帰した。この結果は、五島列島周辺海域には海水が滞留する傾向のあることを示唆し、漂流ハガキが長期にわたり五島列島の海岸に漂着した結果を流動場から支持している。従って、五島列島で放出されたイセエビの幼生は、滞留する傾向のある流動構造によって地元に留まり、親個体群の維持に貢献していることが示唆された。
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