咀嚼異常の診断や疾患の原因を解明する上で、顎関節部の運動を対象者毎に正確に捉えることは非常に重要である。その際、患者の負担を減らす上で非侵襲で顎運動の状態を捉えることが望ましいが、現状では2次元的な顎運動表示法に頼っており、観察が十分にできない。また、表示の元になる生体情報を十分活用しているとは言えない。そこで本研究は、顎運動を3次元的に捉えることのできる表示システムを開発した。 顎運動は、上顎骨に対する下顎骨の相対的な剛体運動であり、運動表示には個体別のデータ、すなわち対象者自身の顎骨形態と同一の対象者の顎運動データが必要である。そこでまず、個体別の下顎骨形態をモデル化する手法を開発した。昨年度の研究では、X線3D-CT画像から下顎骨の輪郭線を抽出し、これを積層することで表現していたが、今回は下顎骨表面形状を小さな三角形で構成された多面体で立体的に表示した。一方、顎運動データは、上顎骨に対する下顎骨の相対変位をデジタル量で計測可能な装置を用いて測定した。 これらのデータを用いて、上顎骨と下顎骨の相対位置を計算し、顎運動の様子をマウスのみで操作可能な表示システムをパーソナルコンピュータ上で構築した。この表示システムによって、今年度は、以下に示すように顎運動の診断に有効な新しい表示機能を加えた。このシステムを用いて、複数の個体の顎運動を表示し、診断システムへの発展可能性を示した。 1.個体別の顎運動を複数の画面で異なる方向から表示できるようになり、顎運動の観察が容易になった。また、異なる対象者の顎運動とも比較できるようになった。 関節部の動きを三次元表示する機能に加えて、運動軌跡の速度、加速度を表示する機能を加えた。この表示機能によって運動速度のプロフィールと疾患との間に高い相関があることが示され、顎運動の状態を知る上で重要な指標となることを見出した。
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