咀嚼異常の診断や疾患の原因を解明する上で、顎関節部の運動を対象者毎に正確に捉えることは非常に重要である。その際、患者の負担を減らす上で非侵襲で顎運動の状態を捉えることが望ましいが、現状では2次元的な顎運動表示法に頼っており、観察が十分にできない。また、表示の元になる生体情報を十分活用しているとは言えない。顎運動は、上顎骨に対する下顎骨の相対的な剛体運動であり、運動表示には固体別のデータ、すなわち対象者自身の顎骨形態と同一の対象者の顎運動データ必要である。そこで本研究は、固体別の下顎骨形態をモデル化する手法を開発し、顎運動を3次元的に捉える事の出来る表示システムを開発することにした。 平成8年度の研究では、X線3D-CT画像から下顎骨の輪郭線を抽出し、これを積層することで下顎骨形状を表現した。この下顎形状を顎運動測定器から得られる3点(R6、L6、IC)と連結し、描画することにより任意の方向の三次元顎運動が観察可能になった。また、X線規格写真(セファロ)の歪みを補正することにより、下顎頭の運動軌跡を正しく表示できることを示した。 平成9年度の研究では、下顎骨表面形状を小さな三角形で構成された多面体で表現し、視覚的に把握しやすい表示とした。このシステムを用いて、以下の研究成果を得た。 1.個体別の顎運動を複数の画面で異なる方向から表示できるようになり、顎運動の観察が容易になった。また、異なる対象者の顎運動とも比較できるようになった。 2.関節部の動きを三次元表示する機能に加えて、運動軌跡の速度、加速度を表示する機能を加えた。この表示機能によって運動速度のプロフィールと疾患との間に高い相関があることが示され、顎運動の状態を知る上で重要な指標となることを見出した。
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