研究概要 |
近年,疼痛・雑音・開口制限を3大徴候とする,いわゆる顎関節症の発症が増加している.この原因として,若年者の軟食傾向による顎の成長・発育不全が考えられている.すなわち,顎と歯の大きさの不釣り合いによる歯列不正により咬合異常が生じて下顎の運動障害が起こり,顎関節に為害作用を及ぼしていることが考えられる.これまでの本講座の研究により,咬合異常が咀嚼における下顎切歯点の運動に及ぼす影響は明らかになってきている.しかしながら,顎関節症の発症のメカニズムを解明する為には,顎関節内にある下顎頭の運動も把握する必要がある. はじめに下顎頭点における限界運動時の運動パターンを知ることを目的として,顎関節,咀嚼筋に自覚的,他覚的に異常を認めない個性正常咬合を有する者の限界運動を測定し,定性的に分析した.その結果,下顎切歯点の運動パターンに対応した下顎頭点の運動パターンが存在が明らかとなった.しかし,顎口腔系の機能状態を評価する上で重要な機能運動である咀嚼運動時の下顎頭の3次元動態に関する報告は少なく,咀嚼運動の分析に適した下顎頭点の存在は不明である. そこで咀嚼運動時下顎頭運動パターンの分析をおこなうために,下顎頭内に設定する下顎頭点の位置を変えることが下顎頭運動パターンの概形に影響を及ぼすかどうか分析を行った.その結果,下顎頭内の測定点の位置を前後方向または上下方向に変えると,咀嚼運動時下顎頭運動パターンの開口経路が閉口経路に転じる点の位置が変化した.しかし,下顎頭内の測定点の位置を内外方向に変えても咀嚼運動時下顎頭運動パターンの概形は変化しなかった.以上より,咀嚼運動時下顎頭運動パターンの分析をおこなうためには下顎頭点の上下方向,前後方向の設定が必要であることが示唆された. 今後は,これまでに明らかにされていなかった異常咀嚼運動時の下顎頭運動を分析する.これにより,異常な下顎頭運動が顎関節円板の転位や変形を惹起する為害作用のバイオメカニクスを解明する上で有益な示唆が得られると考えられる.
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