筋運動の最終共通路である運動ニューロンに対して種々のレベルの情報が勝手気ままな出力を要請してくる。それを整理統括するためには、どこかで強力な抑制をかけるしか方法がない。大脳基底核はそのような抑制機構として出現したと考えられる。Hikosaka & wurtz(1985)は覚醒サルの黒質網様部へのGABA agonist、muscimolの微量注入により、反対側視野の特定領域に向かうサッケードが高頻度で起こることを示した。2年度にわたる本科研補助金交付期間に、筆者は軽麻酔ラットに組織学的同定法と組み合わせた連続微小電気刺激法を用いて、興奮性顎筋活動を誘発する大脳基底核領域の特定を試みた。その結果、Bregmaの後方0.3〜3.3mm、外側2.5〜3.5mmの範囲内のほぼ同じ深さに顎筋活動誘発部位が多数存在することが判明した。誘発される顎筋活動の性質および組織学的同定から、これらの部位は線条体、淡蒼球、脚内核、大脳脚(内包)に分かれた。つづいて、1本の電極で微小電気刺激と微小化学刺激の可能なelgiloy微小電極内蔵型微小ガラス管を軽麻酔ラットの脳内にstereotaxicに挿入し、微小電気刺激により顎筋に誘発される特徴的なEMG活動を指標に基底核出力部の脚内核に導いたのち、脚内核へのGABAまたはmuscimolの微量注入により、同側顎二腹筋に持続性burst活動、あるいは40〜50Hzの持続性motor unit発射活動が起こることを明らかにした。このメカニズムは、脚内核に局在するGABA作動性抑制性ニューロンのautoreceptorにGABA agonistが作用し、その高頻度自発性発射活動が抑制される結果、顎筋premotor neuronの持続性抑制の解除、つまり脱抑制(disinhibition)によると考えられる。誘発される顎筋活動が同側性優位であることから、上丘を経由することなく、脚内核から直接に網様体を経て顎筋に至る下行路の関与が推測された。
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