これまで咀嚼機能の経時的発達変化については、従来から口腔外の観察を基にした口唇・顎の運動の研究や筋電図を用いた研究などがなされてきたが、口腔内での舌の動きについては、明らかにされておらず、その経時的発達変化について客観的に評価した報告もほとんど見られない。そこで、咀嚼機能の中心をなす舌運動について、超音波診断装置を用いて前額断面での舌の動きを描出し、時系列に再構築することによって舌の動態解析を行った。また、外部観察を基にした口唇・顎の運動と関連させて経時的発達変化の定性解析をした。 対象および方法:対象は、1名の健常女児で、本研究開始前に保護者に内容をわかりやすく説明し、観察は、生後12カ月から24カ月までの期間の1月毎に行った。被験食品は、ペースト状食品と赤ちゃんせんべいを用いた。方法は、超音波診断装置に、乳幼児に適したマイクロプローブを接続し、被験児の顎下部から舌背面を前額断面で描出し、舌背正中部の陥凹の動きおよび舌の上下・左右への移動と舌背面の傾斜について現有の時系列再構築システムソフトの改良したものを使って、定性的な動態解析を行った。また、外部から摂食時の口唇・顎の動きをビデオテープに記録した。外部観察は、摂食事の口唇の閉鎖、舌の突出、口角の牽引と顎の動きの各項目について機能評価を行った。 結果:ペースト状食品嚥下時の舌前額断面での舌背正中部の動きの経時的発達変化は、エコー像上で、生後12カ月以降では、舌背正中部に食塊形成のための陥凹の動きが観察された。外部観察では、捕食時の口唇がしっつかりと閉鎖できている様子がうかがわれた。 赤ちゃんせんべい処理時の舌の動きの経時的発達変化については、エコー像上で、生後12カ月には、舌の左右側への移動や舌背面の傾斜する動きが観察された。外部観察では口唇を閉鎖した状態で顎運動している様子が観察された。さらに生後14カ月を過ぎてからは、エコー像上で、舌の左右側への移動や舌背面の傾斜する動きも規則的になり、食塊を左右に移動させる様子も観察されるようになった。外部観察では、上下唇を結んだままつきだす動きも見られた。
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