葉緑体DNAに存在するpsbD遺伝子は光化学系IIの反応中心を構成するD2蛋白質をコードしており、その発現量が光によって変化することが光合成の光環境変化への応用と関係していると考えられている。本研究では、光によるpsbD遺伝子の転写の活性化の分子機構を明らかにし、またその制御に関わると思われる核遺伝子の解析を行った。多くの葉緑体コードの遺伝子は、同じく葉緑体にコードされた原核生物型のRNAポリメラーゼによって転写されていると考えられており、その転写開始点の上流には原核生物型のプロモーター配列(-35および-10配列).が認められる場合が多い。光応答型のpsbDプロモーターにも、それらに類似した配列が存在するが、変異導入プロモーターを用いたin vitro転写の結果から、10配列は必要であるが、-35配列が必須でないことが分かった。また、コアプロモーター領域の上流には2箇所の転写増強配列が存在することも分かった。一方、典型的な原核型のプロモーター配列を持ち光と無関係に転写されるpsbA遺伝子の-35配列を除去すると、暗所での転写が著しく減少し、光応答型のプロモーターに転換することが明らかになった。さらに、プロモーター配列の認識特性が、明所の葉緑体RNAポリメラーゼと大腸菌σ^<70>タイプRNAポリメラーゼでは良く似ているのに対して、暗所のRNAポリメラーゼは、大きく異なることが分かった。従って、光に応答して葉緑体のσ因子が入れ替わり、その結果RNAポリメラーゼのプロモーター認識特性が変化している可能性が考えられる。実際、本研究では葉緑体のσ^<70>ホモローグの発現が光で誘導されることを明らかにした。これは、in vitro転写と一致するものであり、葉緑体のσ^<70>ホモローグの光に応答した発現変化によって葉緑体の光応答転写が起こっていることが強く示唆された。
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