1.ラン藻における二つのプロトクロロフィリド還元酵素系の生理的役割 ラン藻は、クロロフィル(Chl)の合成系の一過程であるプロトクロロフィリド(Pchlide)の還元に二つの酵素を用いている。一つは、反応に直接光を要求するPchlide還元酵素(LPOR)であり、もう一つは、光に依存しないPchlide還元酵素(DPOR)である。これら二つの還元酵素系の生理的役割の違いを検討するため、ラン藻Plectonema boryanumからLPORをコードする遺伝子porのクローニングを行い、por遺伝子欠損株YFP12を単離し、野生株及び、先に単離したDPORの遺伝子chlLの欠損株YFC2と、生育の比較を行った。その結果、YFP12は弱光下では野生株と変わらず生育したが、強光条件下では生育することができなかった。一方、YFC2はいずれの条件下でも野生株と変わらず生育した。これらの形質から、ラン藻細胞では弱光条件下ではいずれのPchlide還元系もChl合成に寄与するが、強光下(>130mEm^<-2>s^<-1>)ではLPORは生育に必須であることが判明した。 2.ラン藻変異株をを用いた光化学系分解構築過程の解析 DPORの遺伝子chlLを欠損した株YFC2を活用して、光化学系の構築過程をChl合成の観点から解析する試みを行った。YFC2を暗所で培養を続けることにより、Chlレベルが元の細胞の約0.5%まで減少した“黄化"細胞を作出した。このような細胞の光化学系蛋白質の存在量をウェスタン解析で検討した結果、光化学系II(PSII)のサブユニットであるCP47及び、33-kDは、元の細胞と比べて大きな変化は認められなかったのに対し、光化学系I(PSI)のサブユニットであるPsaA/PsaB及びPsaCは検出限界以下に減少していた。この結果から、Chlレベルの低下は、PSIIよりもPSIの構築の停止と分解を優先的に引き起こすことが示唆された。
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