研究概要 |
当該研究は、高濃度で存在するにもかかわらず、未だその生理学的意義が明確でない皮膚ウロカニン酸(UCA)に関して、研究代表者らが発見したUCAの新代謝経路並びに光生物学の観点から新知見を与えることを目的とするものである。本研究ではUCAとシステインとの付加化合物(I)及びグルタチオンとの付加化合物(II)の分子基本骨格となっているイミダゾールプロピオン酸部分の、β位不斉炭素原子上の立体構造が重要なポイントとなる。交付申請書に記載した「研究実施計画」に対応させて、平成8年度に行った研究によって得られた新たな知見等の成果を下記する。 1,化合物IおよびそのN-アセチル誘導体の各々のdiastereomerを化学合成し、カラムクロマトグラフィーによって各diastereomerの分離・精製を行って、本研究の重要な物質である化合物Iの不斉炭素原子に関する情報を得た。さらに、N-アセチル化酵素によるβ位不斉炭素原子の立体異性認識を詳細に調べて、人尿中N-アセチル誘導体の立体異性体の特性を明らかにした。この研究成果はBiochim.Biophys.Actaに公表した。 2,化合物I,IIおよびその関連化合物の各diastereomerを迅速且つ微量で定量するキャピラリー電気泳動法を確立した。この研究成果は第16回キャピラリー電気泳動シンポジウム(名古屋)で発表しSymposium on Capillary Electrophoresis 1996に公表した。 3,キャピラリー電気泳動による微量定量法を用いて化合物IIから化合物Iへの代謝を詳細に調べた結果、この過程では酵素によるβ位不斉炭素原子の立体異性認識が行われないことが明らかとなった。この研究成果はThe 10th International Symposium on High Performance Capillary Electrophoresis and Related Microscale Techniques(京都,1997年)で発表するとともに、現在国際科学雑誌に投稿中である。また、この代謝にγ-glutamyltransferaseが関与することが明らかになり、近く公表する予定である。 4,上記研究中に、化合物Iの代謝産物をさらに発見し、UCAとメルカプトピルビン酸との付加化合物であると同定した。また、この化合物が、人尿中にすでに発見していた化合物への代謝中間体となっていることを明らかにした。この研究成果は第69回目本生化学会・第19回日本分子生物学会合同大会(札幌,1996年)で発表するとともにAmino Acids(1997年)に掲載される。 5,上記3で示された結果から、尿中に存在する化合物Iのβ位不斉炭素原子の立体配座は化合物IIの生成階段ですでに決定され、その配座を保持していると考えられる。したがって紫外線によって皮膚のみでしか生成しないcis-UCAとこのUCAの新代謝の生理学的関連を知る目的で、現在、酵素glutathione S-transferaseを用いてtrans型およびcis型UCAからの化合物IIの立体異性体生成を調べており、得られた研究成果は第17回国際生化学・分子生物学会(San Francisco,1997年)で発表する予定である。
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