研究概要 |
平成9年度は交付申請書に述べたように、新代謝経路の起点となっているウロカニン酸(UCA)とグルタチオンとの付加化合物(化合物I)に焦点を絞って、「生体防御の観点から、太陽紫外線によって起こる皮膚中UCAの trans-cis立体異性化と化合物Iの立体異性体生成がどのような関連をもつか」を明らかにすることを目的として行なった。本研究では、化合物Iのイミダゾールプロピオン酸骨格部分のβ位不斎炭素原子上の立体構造が重要なポイントとなる。さらに、化合物Iの生理学的意義の解明が重要な焦点である。平成9年度に行った研究によって得られた新たな知見等の成果を下記する。 1,化合物I及びその代謝産物の各々のdiastereomerを同時に迅速微量定量するキャピラリー電気泳動法を確立した。この方法を用いて、化合物Iの最初の異化であるγ-glutamyl基の離脱についてラット腎臓homogenate酵素源として調べた結果、この過程では酵素によるβ位不斉炭素原子の立体異性認識が行われないことが明らかとなった[第70回日本生化学会大会(金沢,1997年);J.Chromotogr.A(1998年)]。 2,上記の反応にはγ-glutamyltransferaseが関与することを明らかにした。また、化合物Iとこの酵素との親和性は極めて高く、グルタチオンの分解を非常に強く抑制することを in vitro で示唆した[第70回日本生化学会大会(1997年);国際科学雑誌に投稿中]。 3,化合物Iおよびその代謝は、皮膚UCAの紫外線に対する生体防御機構や trans-cis立体異性化と密接な関連をもつことが示唆されていたが、本研究によって初めてその生理学的意義の一端が示された。すなわち、化合物Iが細胞内外のグルタチオン濃度を調節している可能性が強く示唆された。グルタチオンは紫外線によって引き起こされる酸化的ストレスや活性酸素の除去・防御に関わる重要な物質であり、今回の研究結果は紫外線に対する生体防御機能の観点からも注目に値する。今後さらに詳細な in vitro での研究が求められる[第17回国際生化学分子生物学会(San Francisco,1997年);国際科学雑誌に投稿中]。
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