本研究は、我々が発見したウロカニン酸の新代謝に着目しながら、高濃度で存在するにもかかわらずその生理学的意義が明確でない皮膚ウロカニン酸(UCA)に関して、紫外線に対する生体防御の観点から新知見を与えることを目的として行った。本研究によって、正常ヒト尿中から新たに二つの代謝産物が分離・同定され、この新代謝の経路が確立された。また、この代謝では一連の化合物の分子基本骨格であるイミダゾールプロピオン酸部分のβ位不斉炭素原子上の立体配座が重要なポイントであり、各々二つの立体異性体が存在する。本研究によって、これら立体異性体を同時に迅速且つ微量で定量するキャピラリー電気泳動法が確立され、その代謝に関与する酵素の立体異性認識に関する研究成果を得た。さらに、この代謝の生理学的意義の一端を初めて明らかにした。すなわち、この新代謝経路の起点となるUCAとグルタチオン(GSH)との付加化合物(I)の生成は、皮膚UCAの紫外線によるtrans-cis立体異性化と密接な関連をもつことが示唆されていたが、この化合物Iがγ-glutamyltransferase(EC2.3.2.2)の活性を微量で著しく低下させることをin vitroで明らかにした。この酵素は主にGSHおよびその誘導体の分解に関与しているが、化合物Iは競合的且つアロステリックにその酵素活性を調節することによって、細胞内外のGSH濃度を高めるのに重要な役割をもっている可能性が示唆された。皮膚に対する紫外線(太陽光線)の照射はスーパーオキサイドや過酸化水素などの活性酸素の生成、さらに、種々の細胞・組織ダメ-ジやストレスを惹起するが、GSHはよく知られた活性酸素のスカベンジャーであり、紫外線によって引き起こされる酸化的ストレスや活性酸素の除去・防御に関わる重要な物質である。したがって、本研究で得られた結果は、紫外線に対する生体防御・修復機能の観点から重要なものであると考える。今後さらにin vivoでの詳細な研究が求められる。
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