特定の構造を持った文が、談話のなかである特定の動機に基づいて用いられる可能性があることを実証的に研究することを目的に、本年度は主としてコピュラ文の研究に重点を置いた。まずこれまで同定文、あるいは指定文と呼ばれてきている「〜が〜だ」というタイプの文がさらに2種の下位分類を為すものであることを明らかにし、これらの談話内での用いられ方を調査した結果、主語名詞句を特立させるために用いられるものと、述語名詞句を特立させるために用いるものであることが明らかになった。また、後者のタイプの場合は、述語名詞句の指示対象物が後続談話に持続的に語り継がれていく可能性が高いということも数量的に明らかになった。この傾向は、分裂文の「〜のが〜だ」という形式の場合、さらに顕著になり、90パーセント以上の文で、述語名詞句が後続の談話で語り継がれていくという結果を得た。 語順の最も基本的な形は、発話時に聞き手の意識に登っている事柄をず述べて、次にそれに関連した事項をつけ加えるという形、つまり「旧情報から新情報へ」という流れであると言われている。コピュラ文を調査した結果、ほとんどの場合で、この流れに沿っていることが観察されたが、主語名詞句を特立するタイプのものに関しては、必ずしもそうではなく、話し手が緊急に伝達する必要があると考える情報がまず述べられて、次に聞き手の意識にすでに登っていると考える情報が続く「新情報から旧情報へ」という流れが見られることが明らかになった。これは、文頭という重要な位置が、ある場合は前提を共有するために、またある場合は緊急の情報をいち早く伝達するために利用されるためであると考えられる。 これらの成果に関しては、本年3月にスロベニアのリトルュブリアナ大学言語学サークルで研究発表を行う予定である。
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