日本語の文の構造を談話における機能という観点から研究し、言語類型論的な比較を行うことを目的に、分裂文・存在文などに関する語順と談話機能の関わりについて研究を進めてきた。 文の構造と談話機能の対応は一対一の関係で結びつくといった単純なものではないために母語話者や言語学者の内省に頼った研究では限界がある。そこで、本研究では、数量的な調査・実験・コンテクストを伴った文の許容度判断の調査など、多角的なデータを分析することを通じて、実証的に検証すること試みた。具体的には次のような活動を行った。 1. 書き言葉のデータベースの作成・・・随想、説明文などの書き言葉から存在文・分裂文など、語順研究の対象となる用例を、前後数段落にわたる文脈とともに抜き出してデータベースを作成した。 2. 話し言葉のデータベースの作成・・・データベースを作成するにあたって、話し言葉を録音し、書き起こした。そこから、存在文・分裂文・倒置文など語順研究の対象となる用例を検索し、前後の文脈とともに抜き出してデータベース化した。 3. 語順の変化が後続談話の構造に及ぼす影響を調査するために、文章完成テスト実験を行った。 4. 語順の変化が後続談話の主題連鎖に及ぼす影響を調査するために、文章要約テスト、タイトル作成テストを行った。 5. 以上二つの実験について、現在論文を執筆中である。 6. 分裂文の分析結果を論文「日本語コピュラ文の談話機能と語順の原理-『AがBだ』と『AのがBだ』構文をめぐって-」にまとめ、筑波大学文芸・言語学系紀要に発表した。 7. 6の成果をリュブリアナ大学言語学サークルとオーストラリア日本研究学会で発表した。 8. 日本語の語順研究の成果を言語類型論的な説点がら考察するために、言語類型論的な語順研究の検索を行い、語順研究についての考察を行った。 9. 8の成果は語順研究の展望に関する論文と参考文献一覧としてまとめ、科研費報告書として出版した。
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