(1) 言語発達遅滞児に対する会話技能の指導 昨年度に引き続き、ディスコースユニットモデルを基に場面を設定し、言語発達遅滞児の会話技能の指導を実施した。7歳のダウン症女児に、工作場面で身体援助、言語指示、モデル提示などの段階的な援助を与え、聞き手の意図を想定した発話行為の遂行を促したところ、セッションの経過と共に相手の意図を尋ねる行為が可能になった。また、6歳のダウン症児に、ファーストフード店場面を設定し、誤提示を用いて伝達意図の調整を指導したところ、調整を求める選択質問への応答や、相手の要求に応じて意図を調整するといった伝達の柔軟な調整が可能になり、実際のファーストフード店での般化も確認された。 (2) 会話発達の基礎研究 場面によるディスコースの特徴を検討するために健常児2歳、3歳とダウン症児(MLU マッチング)の母子の相互交渉を観察した結果、母子間で知識が共有され、認知的負荷が軽減されている日常生活ルーティン場面の方が玩具遊び場面よりも時空間的に離れた事象といった高次な言語使用が多いことが示された。会話内容が「今、ここ」に限定されるダウン症児は会話初期から既に未来事象への言及が少ないことが示された。一方、おやつスクリプトの獲得について10〜22ケ月の健常児とダウン症児(MA マッチング)について縦断的検討を行った結果、スクリプトの中心的要素から細部要素へ(18ケ月頃)という獲得の順序性が示され、また同時期に言語による伝達が開始されたことから、スクリプトの獲得と言語獲得、ディスコースの関連性が示された。ダウン症児はスクリプト獲得に遅れがみられ、言語獲得やディスコース発達の遅れの1つの要因である可能性が示唆された。
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