日本語複文の場合は、主節と従属節の間の関係が接続助詞によって明示されている。そこで複文に関する研究成果を直接利用できる場合として、まず二つの文の間の談話関係(例えば、順接)が文の表現によって明示されている場合を扱った。具体的には、「から」「ので」などの接続助詞に対応する文頭や文末で使われる「だから」、「…だもので」などがあり、これらによって前の文と後の文の関係が分かる場合を扱う。この際、ふたつの文の述語の意味ないしは語用論的性質によって、ふたつの文の主語の同一指示関係にいかなる制約が課せられるかを明らかにした。日本語では、頻繁に主語が省略されるから、このような制約を明らかにすることは、省略された主語の指示対象を同定するために不可欠である。主要な結果としては、従属節の述語をその意味によって、物理的動作、感情、感覚、社会的関係などに分類し、その意味分類によって主節と従属節の主語の一致、不一致を予測する制約を明らかにした。この制約により、「ので」文においては88%の精度で主語の一致、不一致を予測できた。また、この予測を行なう処理システムも試作した。一方、文頭、文末の「だから」、「…だもので」については、その文と因果関係にある文を探す方法を提案した。話言葉のコーパスで約60%について提案した方法が予測に成功した。これについても処理システムを試作した。
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