研究概要 |
本研究は英語を対象として談話文法の原理に支配される同一指示(coreference)解釈と文文法の原理に支配される束縛変項(bound variable)解釈の言語獲得過程における発現を実証的に調査することによって、談話文法と文文法の区別の正当性を実証し、その2つの知識の相互作用について理論的検討を加えることをその目的とする。 近年の文法獲得に関する理論的・実証的研究により、その過程はヒトに生物学的に組み込みまた普遍文法(Universal Grammar. UG)と生後子どもが下界から取り込む経験の相互作用の過程であることが明らかになった。これらの研究の対象となっている「文法」とは厳密には単一文内の規則性に係わる文文法を指すが、言うまでもなく言語知識は文文法以外に談話に関する規則性に係わる談話文法を含む。本研究では、談話文法と文文法の接点に係わる言語現象を取り上げ、その獲得を調査した。 具体的には、(1)のような動詞句省略(VP Ellipsis)の解釈を研究対象とする。(1)John likes his teacher, and Bill does too. (1)における動詞句省略部は少なくとも(2)の解釈(厳密な同一性)と(3)の解釈(略式の同一性)を許容する。(2)Bill likes John's teacher. (3)Bill likes his own teacher. Reinhart (1983)などにしたがい、厳密な同一性の解釈は談話文法の原理にしたがう同一指示解釈の機構により得られ、略式の同一性の解釈は文文法の原理にしたがう束縛変項解釈の機構により得られると考えると、2つの解釈は別々の原理に支配されているのであるから、それらの原理が偶然同時に発現するのでなければ、言語獲得過程における2つの解釈の発現の時期は異なるはずである。本研究では、実験資料と発話資料の両者を検討することによって、この点を明らかにした。 実験にもとづいた昨年度の研究に続き、今年度は発話資料にもとづく調査と研究の取りまとめを行った。
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