研究概要 |
本年度は昨年度に引き続いて,次の言語表現について検討した.1.感謝表現の状況的使い分けの検討を幅広い見地から検討した.昨年度から継続している,状況変数を統制した実験に関しては,対数線形モデルによる解析を行い,謝罪型(例:「すみません」)は聞き手の負担が大きいと使用が促進されるが,話し手の利益が大きいと逆に抑制される.感謝型(例:「ありがとう」)は,聞き手の負担,話し手の利益の両方によって使用が促進されることを見いだした.また,多様な状況変数の影響を検討するための新たな質問紙実験も行った.ここでは多数の場面の印象を質問紙で評定させる.一方そこで感謝型,謝罪型の表現をそれぞれ使用する可能性も評定させ,場面認知と表現の使用との関係を重回帰分析によって検討する.データは収集し終わったので,来年度の早い時期までに分析を終了させる予定である.2.実際の会話場面での種々の対人関係を調整する表現の現れを探るため,口頭や電話での会話の録音データの分析に着手した.ここでは特に応答詞(「そうです」,「そうですね」,「はい」,「いいえ」等)や接続詞(「だから」,「しかし」)に焦点を当て,実験データの補足資料を得ることを目的としている. 一方,言語的コミュニケーションの受け手が,様々な言語的スタイルの話し手についてどのような評価を与えるか,どのような印象を抱くかに関する研究も行った.今年度は昨年度名古屋地区において収集した名古屋弁と標準語とを比較するデータを分析し,言語的スタイルが話し手の話し方に関する評価のみならず,話し手の知性や社交性などパーソナリティの諸側面や,容姿の推測にも影響を及ぼすことを見いだした.また,新たに地域差についての資料を得るため,名古屋地区のほか関西地区でもデータを行った.
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