研究概要 |
言語表現の状況的使い分けに関して体系的な枠組を得るため,社会心理学的な見地から実証的な研究を行った.主として,状況要因を独立変数として操作して言語反応等を従属変数とする実験的手法を用いた.これに加えて,結果のエコロジカルバリディティを確認するため,録音した会話やシナリオに現れた会話を分析して,事例的に検討したり,可能な場合は定量的に分析する方法でも研究を進めた.具体的な研究内容は以下の通りである. 1. 感謝表現に関して,質問紙を用い状況要因を独立変数とした実験的研究をいくつかの観点から行い,実験結果を分散分析や重回帰分析等により解析することにより,感謝型と謝罪型の表現の使い分けに関与する諸要因の影響について全体的な考察を試みた.英語(英国)での感謝の表現の使い分けのとの比較・検討も行った. 2. 対人配慮に関わる他の諸表現についても状況要因との関わりを検討した.具体的には「ごくろうさま」,「おつかれさま」,「たいへんでしたね」等のねぎらい表現,「失礼しました」等の謝罪表現,「そうです」,「いいです」等の評価的応答表現を扱った. 3. さまざまの言語表現の使い分けに対する聞き手の反応を実験的に検討した. 4. これまでに知見が得られた対人配慮表現に関して,日本語における状況と表現の関わりについて,従来の日本語の敬語に関する先行研究や欧米の諸研究もふまえて包括的なモデルを検討した. 今後は4で示したモデルを修正発展させる中で,日本語の対人配慮表現を状況と関連づけて体系的に整理していくことを計画している.その際,他の言語における知見と比較して日本語の場合の特徴を明らかにするとともに,対人配慮の普遍性についても考察を進める予定である.
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