研究概要 |
言語使用者は、言語を使用する状況にふさわしい語彙や構文、テキスト構成を選択していると考えられる。話して伝える場合と書いて伝える場合で、それらの選択がどのように異なり、またなぜ異なるのかを解明する必要がある。特に自然科学分野の論文と口頭発表に使用される英語の差にはこれまで注目されてこなかった。本研究では、自然科学分野の論文と口頭発表に使用される英語の相違と相違の生じるメカニズムを解明するために、英語母語話者による国際会議の口頭発表を録音し文字化したテキストと同一科学者による同一タイトルの論文を比較した。研究全体は3部からなり、論文と口頭発表を対にしたコーパスの編纂、その分析、分析結果の解析である。 コーパスは非晶質物質に関する物理関係の国際会議における10対の論文と口頭発表計約75,000語からなる。語彙・文法面の分析では、Biber(1985)のLondon-Lund,LOBコーパスのジャンル別数値とともに比較した結果、有意差があることが解った。各文と節の主題を比較すると、論文の主題部は名詞句が多く、口頭発表の主題部にはweやyouなどの人称代名詞、接続詞、関係詞が多用されていた。また結束手段は、前者は語彙的結束、後者は連結詞による結束が多く見られた。情報構成面では、論文のabstractと口頭発表のconclusion部が同じ情報機能区分(moves)から成り立ち、論文に情報の「前方付加的」特徴が見られた。また同じ機能区分内の表現を比べると口頭発表にはcan,may,it appears thatな[出張緩和的]特微が見られた。これらの結果を説明できるディスコース形成モデルを提示した。これらの結果は、International conference onspeech,writing and context:literary and linguistic perspectives(1998年7月、於英国ノッテインガム大学)で発表した。
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