本研究の目的は談話能力の評価を行う際のタスクの違いによる結果への影響をみることである。健常成人話者25名を対象に7種の異なる談話タスク、すなわち、2種類の情景画、4コマ漫画、テレビドラマを呈示して話す課題、3つの決められた語を用いて話す課題、2種類の手続きの説明を課題を施行した。情景画の課題については、「絵について説明して下さい」という教示と「絵について物語を話して下さい」という教示を絵によって変えて行った。手続きの説明課題は、課題のみを与えるものと、手順を示した漫画でを提示するものの2種類の方法で施行した。また、10名の話者については、約1年の間隔をおいて、2回施行した。結果は以下の観点に基づいて検討した。 1 同一の刺激絵(一枚の情景画)を用いた場合、教示を「物語を話して下さい」とした場合と「説明をしてください」とした場合の差異について検討した。この結果から、発話時間、発話量、情報単位数といった、発話の量的側面、および発話のよどみの出現については、教示の違いによる有意な差は認められなかった。しかし、表出された情報が客観的か、話者の推測を含んでいるかという、情報内容の性質の点では、刺激絵によっては有意な差を認めた。 2 課題の違いによる分析結果の差異、および被験者による傾向の有無を検討した。指標としては、発話時間、正確な情報単位数など、発話量・情報量を表す指標、およびこれらの指標をもとに計算した、発話効率・情報伝達効率を表す指標を用いた。結果として、情報伝達効率を表す指標以外の多くの指標において、課題の違いによる差を認めた。また、ほとんどの指標において被験者に固有の傾向がみられた。
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