Na/H逆輸送担体を過剰発現するトランスジェニックマウスの開発中に、偶然、導入遺伝子がマウスの未知遺伝子をノックアウトした老化モデルマウスを樹立した。老化マウスは生後約4週で成長が停止し、寿命はオス7.9週、メス9.5週である。また動脈硬化・僧帽弁輪石灰化・骨粗鬆症などが認められた。A)肺:野生型マウスと比較して気腫性変化が強く肺気腫の所見であった。さらにホモ個体では、野生型と比較して動肺コンプライアンスが有意に大きかった。B)血管:ホモ個体では、中膜石灰化と内膜肥厚が全身の様々な血管で生じていた。ヘテロ個体においてLNAME非存在下では、ノルエピネフリンに対する収縮反応が有意に亢進していた。また、アセチルコリンによる弛緩反応も有意に低下していた。すなわち、この老化マウスでは血管内皮細胞におけるNO産生障害が存在すると結論された。C)膵内分泌機能:老化マウス群の膵臓インスリン含量は、各週令とも対照群と比較し有意に低かったが、グルカゴン含量には差を認めなかった。なお酸化ストレスの反映である脂質過酸化物の増大および酸化ストレス防禦機構の機能低下の有無についても検討を行ったが血清・臓器とも脂質過酸化物量やスカベンジャー系酵素活性(スーパーオキシド・ディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオン・ペルオキシダーゼ活性)に低下を認めなかった。従って本老化モデルでは、酸化ストレスは老化の主要な因子ではないと考えられた。 老化マウスの原因遺伝子はすでに単離され、腎臓に大量に発現する未知の遺伝子である。すなわち腎臓では老化抑制機能をもつ生理活性物質が産生されている。その生理機能と発現調節は今後の課題である。
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