1.ニホンザル大脳皮質各領野や海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)の加齢に伴う遺伝子の発現変化をノザンブロット法によって調べた。その結果、BDNFmRNAは1.6kbと4.0kbの2本のバンドとして大脳皮質各領野や海馬において検出された。さらに30歳以上のサルにおける大脳皮質各領野の1.6kbと4.0kb mRNAの発現量は、それぞれ2歳の30-60%、50-80%に減少していた。一方、海馬では1.6kbのみ2歳の60%に減少していた。以上、加齢に伴ってサル大脳皮質のBDNF遺伝子発現は顕著に減少するが、海馬は比較的安定に遺伝子発現していることが明らかにされた。 2.ニホンザル大脳皮質や海馬のソマトスタチンの遺伝子発現量をノザンブロット法で調べた結果、0.65kbの位置にmRNAが検出された。大脳皮質や海馬におけるソマトスタチンの遺伝子発現量は30歳以上では2歳の30-40%に減少していた。ソマトスタチンの遺伝子発現はBDNFによって活性化される事が知られているので、ソマトスタチンの発現量の低下は上述のBDNFの遺伝子発現量の低下によるものと解釈された。 3.BDNFに特異的なペプチド(E-K-V-P-V-S-K-G-Q-L)に対するポリクロナル抗体をウサギを使用して作成した。本抗体を使用した免疫組織化学法によって、成熟期カニクイザルの大脳皮質の細胞を染色した。その結果、大脳皮質2-3層及び5層のピラミダル細胞がBDNFを含有していた。今後細胞の加齢変化を調べるとともに、ウエスタンブロット法や酵素免疫測定法によってサル脳内のBDNFタンパク質を検出し、タンパク量の変遷を調べることを計画している。
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