研究概要 |
1.ノザンブロット法により、ニホンザル大脳皮質各領野や海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)とソマトスタチンの加齢に伴う遺伝子の発現変化を調べた。その結果、30歳以上のサルの大脳皮質各領野のBDNFmRNA(1.6kbと4.0kb)の発現量は、それぞれ2歳の30-60%、50-80%に減少していた。一方、海馬では1.6kbのみ2歳の60%に減少していた。また大脳皮質、海馬のソマトスタチンmRNA(0.65kb)は、30歳以上で2歳の30-40%に減少していた。ソマトスタチンの遺伝子発現はBDNF量によって制御されているので、ソマトスタチンの発現量の低下は上述のBDNFの遺伝子発現量の低下によるものと考えられた。これらはBrain Res.1997、Neurochemical Res.1996に発表された。 2.BDNFは受容体であるTrkBを介して細胞に作用するが、TrkBにはチロシンキナーゼを持つ分子(TrkB+)と持たない分子(TrkB-)が存在する。TrkB+に対する抗体をもちいてサル海馬におけるTrkB+を含有する神経細胞の発達を調べた。その結果、TrkB+は歯状回の顆粒細胞、CA1〜CA4および海馬台の錐体細胞に発現していた。またTrkB+は胎生期から観察され、生後4ヵ月がもっとも発現量が多く12歳になると減少していた。これはNeurosci.Res.1997に発表された。またウエスタンブロット法によって大脳皮質のTrkB+,TrkB-の発達を調べたところ、TrkB+は胎生期から成熟期まで一定量発現しているのと対照的にTrkB-は生後急増することを発見した。この成果はSoc.Neurosci.Abs.1997に報告された。今後老齢サルのTrkB類の変遷過程を解明する予定である。
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