本研究課題は実験材料として若齢(5週齢)、壮齢(50週齢)、老齢(100週齢)ラットおよび心不全ラットを用いる2年間の継続研究である。本年度はラット心内膜内皮細胞(EECs)培養法を確立し、さらにその生理的意義の検討は主にブタEECsと同種血管内皮細胞(VECs)とを比較検討しながら行った。 1、ラットEECsの単離/培養法の確立:ブタEECsと同様にコラ-ゲナーゼ処理によりEECsを単離し、I型collagen被膜培養dish上で継代培養を行った。この方法で得られたEECsは内皮細胞の形態的特色である単層敷石状構造を示し、機能的にはDiI-Ac-LDLの取り込み活性が認められた。 2、ラットEECsの生理的機能の検討:細胞あたりの一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI_2)産生能はラット胸大動脈と比べ有意に高値を示した。若齢ラットEECsのこれら産生能は圧負荷により影響を受け、NO産生能は減少し、PGI_2産生能は増加した。 3、ブタEECsによる生理的意義の検討:(1)EECsの成長速度はVECsより速く、(2)EECsの血小板凝集抑制作用はVECsより強く、その作用は主にPGI_2産生亢進に起因した。(3)PGI_2産生能の強さは左心室EECs>右心室EECs>肺動脈ECs>冠動脈ECs=大動脈ECsの順である事が見い出された。(4)圧負荷によりEECsではPGI_2産生能の増加とNO産生能の減少が認められた。 心内膜内皮細胞の生理的意義は未だ不明である。しかし本研究結果から、ラット、ブタ、いずれの場合でもEECsはVECsに比べPGI_2産生能/血小板凝集抑制作用が高いことから、EECsの心機能への影響は否定できず、加齢による心内膜皮細胞の機能低下は心機能不全を引き起こす可能性が示唆された。
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