研究概要 |
細胞老化に関わる転写抑制因子Orpheusについては、chemical footprint assayおよびsite-directed mutantによるgel shift assay,CAT assayにより、ISE2の中のAAATAATTという配列を認識しcollagenase遺伝子の転写抑制に寄与していることが明らかとなった。Orpheus結合部位について転写因子結合部位データベースと照合したところ、Oct-1の結合部位と高い類似性を示した。Orpheusの結合活性はOct-1に対するポリクロナール抗体およびモノクローナル抗体によって完全にsupershiftすること、また、in vitroで合成したレコンビナントOct-1蛋白の結合活性はOrpheusと完全に一致することから、OrpheusはOct-1であることが明らかとなった。Oct-1の結合活性と転写抑制能は細胞老化・不死化過程で変化し、核抽出液中のOct-1の蛋白量もそれに伴って変化するのに対し、全細胞抽出液中では細胞老化・不死化の過程を通じてほぼ同量のOct-1が存在していた。このことは、Oct-1の細胞内局在が変化している可能性を示唆している。Oct-1抗体による蛍光抗体染色を行った結果、Oct-1が核周囲に顕著に局在していること、この局在は細胞老化の過程で徐々に失われ、不死化とともに再び出現すること、また、、この核周囲のOct-1蛋白は核ラミナを構成する蛋白の一つであるラミンBと共存していることが明らかとなった。さらに、Oct-1の核周囲の局在が完全に認めらえなくなった細胞は、細胞が大きく伸展したいわゆる老化形質を示し、抗collagenase抗体で強く染色された。これらの結果から、Oct-1が介在する転写抑制性の核内構造が細胞老化の制御装置、すなわち我々の提唱している分子カウンターの実体として重要な役割を果していることが考えられた。一方、老化細胞特異的な転写活性化因子Plutoについては、one-hybrid systemを用いて、現在数種類の候補遺伝子をクローニングしている。
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