若い増殖中の細胞や不死化細胞において抑制されている細胞老化関連遺伝子群は細胞老化期に発現が誘導され、これらの老化関連遺伝子群の機能によって細胞の老化形質が現れる。老化関連遺伝子の一つであるI型コラ-ゲナーゼ遺伝子では、約1.7kb上流の100bpの領域に不死化に関連して転写調節に与る2つのシス・エレメントISE1およびISE2がある。これらのエレメントに結合する転写活性化因子Plutoと転写抑制因子Orpheusの相互作用が、コラ-ゲナーゼ遺伝子における細胞老化と不死化に伴った発現調節に重要な役割をもつものと考えられるに至った。 酵母のone hybrid選択法を用いて、転写活性化因子Plutoの候補遺伝子として3種のcDNAクローンを単離した。これらのcDNAクローンがコードする蛋白質には、白血病細胞の染色体転座部位に見いだされるALL-1/ML/RX複合遺伝子群のCXXCドメインが認められ、cDNAクローンの一つはp33NG1腫瘍抑制因子に極めて近縁な蛋白質をコードしていた。 転写抑制因子Orpheusはすでに知られている転写因子Oct-1であることが確認された。Oct-1蛋白質は、若い増殖中の細胞や不死化細胞では、核ラミナの構成因子であるlaminBとともに細胞核の周辺部に局在していた。老化細胞では、核ラミナにおけるOct-1蛋白質の集中局在は消失して、Oct-1蛋白質は細胞全体にびまん性に分布して認められた。Oct-1はヘテロクロマチンなどの高次染色体構造を介して老化関連遺伝子群の転写抑制に働くことが示唆された。 このような不死化に関連する転写因子群の詳細な解析によって細胞に内在する老化と不死化の機構についての知見を得ることができるものと考えられた。
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