研究概要 |
我々は、マウスおよびラットの大脳皮質シナプトソームからのアセチルコリン放出が老齢で低下していることを見い出したが、コリンアセチル転移酵素活性やアセチルコリン合成には変化のないことを明らかにした。さらに、脱分極刺激でシナプス内で流入するCaイオン量が老齢で低下していることを見い出し、老化脳におけるセチルコリン放出の低下は、電位依存性Caチャネルの異常によるのではないかとの作業仮説を持つに至った。神経伝達物質の放出のトリガーとなるCa流入に関与する電位依存性Caチャネルの分布と量、およびアセチルコリン放出との関連についての加齢変化を明らかにすることが本研究の目的である。 電位依存性Caチャネルには電気生理学的および薬理学的に性質の異なる数種のサブタイプが存在することが知られている。電位依存性Caチャネルの各サブタイプに特異的な4種の阻害剤によるシナプトソームへのCa流入阻害実験から、脳シナプスにおけるサブタイプの分布との加齢変化を調べた。その結果、大脳皮質シナプスにはカルシセプチン感受性のL型チャネルが24%,ω-コノトキシンGVIA感受性のN型チャネル32%,ω-アガトキシンIVA感受性のP型チャネルが27%,ω-コノトキシンMVIIC感受性のおそらくQ型チャネルが23%であることが分かった。すなわち,大脳皮質シナプスにおいては複数の電位依存性カルシウムチャネルサブタイプが存在することが本研究で明らかとなった。このCaチャネルサブタイプ分布に加齢による変化を老齢ラットより得たシナプトソームで同様に調べたところ、老齢では,P型の電位依存性カルシウムチャネルの分布の顕著な減少が認められた。以上のように、カルシウムイオン流入低下やCaチャネルの異常が老齢動物脳のコリン作動性神経伝達障害の一つの要因となっていることが本研究によって示唆された。
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