培養細胞の示す細胞老化現象は広く観察され、その生物学的な意義付けも多く議論されてきた。しかし一方これは細胞を試験管内で培養することによる人為的な現象にすぎない、との反論を払拭できずにいた。鎖状のDNAの複製は、その末端部分の複製に問題を抱えていることは既に20年以上前から指摘されていた。テロメアの構造が近年明らかにされ、実際に鎖状DNAの末端が脱落していくことが測定できるようになった。 テロメアとテロメラーゼの生物学的役割を明らかにする目的で、多くのヒト白血病由来不死化株を用いた。いずれの不死化株ともテロメラーゼ活性を有していたが、その活性の強度とテロメア長には相関が認められなかった。Namalwa細胞株が特に強いテロメラーゼ活性を示し、テロメラーゼの精製をはじめとするテロメラーゼの分子生物学的研究の目的に適した細胞株であることが明らかになった。 テロメア短縮により細胞老化が起こることがあきらかにされた。この老化細胞は最終的には細胞死に至る。細胞死はプログラムされた細胞死、すなわちアポトーシス(apoptosis)であろうか。テロメア短縮はアポトーシス誘導を引き起こすのであろうか。それを明らかにする目的で、今回細胞寿命を示すヒト血管内皮細胞に、アポトーシスを誘導する実験系を確立した。このアポトーシス誘導のシグナル伝達系の検討を行った。今後これを用いて、テロメア、テロメラーゼ、アポトーシスの関連を明らかにする予定である。
|