線虫C.エレガンスを用いて老化に関わる分子機構を明らかにすることを目的とした。C.エレガンスの長寿命変異体及び短寿命変異体を単離し、性質を調べた。変異体の単離は突然変異剤(エチルメタンスルフォネート)及びトランスポゾンの移入によった。遺伝子変異の染色体位置を種々のマーカー変異との組換えにより明らかにした。長寿命変異体は種々の酸化ストレス(高酸素、パラコート、メナジオン)に強い耐性を示した。発生・成長に伴う酸化ストレス耐性の変化を調べたところ、成虫になるに従って耐性が強くなった。野生体では酸化ストレスにより腸細胞の細胞核分裂が高頻度に誘発されることを明らかにしたが、長寿命突然変異体では著しく低下した。短寿命変異体は酸化ストレスに感受性を示した。また酸化ストレスを与えなくても腸細胞の細胞核分裂が起きていた。抗酸化防御に関わる種々の酵素遺伝子の発現を変異体と野生体で比較した。特にスーパーキシドディスムターゼ遺伝子の発現が増大していた。また、酸化ストレスを与えるとこれらの発現が著しく増大した。長寿命変異体は酸化ストレスに対し抗酸化防御機構を誘発する能力が高いことが示された。これらの結果はこの変異遺伝子が抗酸化防御機構を制御していること、また通常の状態で生成される活性酸素による酸化ストレスの蓄積が老化を引き起こす要因の一つであることを示唆した。
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