免疫グロブリン(Ig)遺伝子のV(D)J組み換えの調節を理解するために、IgV遺伝子をJH遺伝子座に挿入した変異をヘテロに持つマウス(T15i/+マウス)を用いて、以下のことを明らかにした。1)T15i/+マウスを生田らによって樹立されたIL-7受容体を欠損するマウスと掛け合わせて得られたT15/iIL-7R-/-マウスでは、対照マウスにおいてはVHT15陽性B細胞の末梢での比率が約40%程度であるのに対して、80%以上であり、pro-B細胞のIgH組み換え時の生存がIL-7によって調整されており、IL-7シグナルの非存在下ではpro-B細胞は3度の遺伝子組み換え、すなわちDH→VHT15、および野生型IgH遺伝子座における通常のVDJ組み換え、を行うのに十分なだけ長く生存できないのではないかと考えられる。2)DHは3つの読み枠(rf)のVDJジョイントを形成しうるが、いわゆるDμタンパクをコードしうるrf2に対しては負の選択が働く。報告者はT15i/+マウス骨髄より、VHT15陽性未熟B細胞を単離し、PCR法によって野生型IgH遺伝子座上のDJジョイントを増幅し、その配列を決定、rfが解析した。その結果、T15i/+マウスではrf2に対する負の選択が働かず、従って、Dμタンパクの負の選択は、それがpre-B細胞に増殖阻害シグナルを伝えるためではなく、それ以上のVDJ組み換えを抑制することによると考えられた。一方、脾臓より単離したVHT15陽性B細胞ではrf2の選択が不完全ながら見られ、Dμタンパクを発現しているB細胞は末梢での生存に不利があることが示唆された。3)DH→VHT15組み換えの調節機構については、VHT15配列上の2ケ所の組み換えホットスポットの近傍の特徴的な配列の役割を検討するための人工組み換え基質プラスミドの作製を試みたものの現時点でpre-B細胞株中で組み換えを起こす基質は得られていない。
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