昨年度までに、細胞表面免疫グロブリン(Ig)によって伝えられるものとは異なるIL-7シグナルによって、B細胞がその分化初期に一定時間生存することが、Ig重鎖組み換えの効率を規定しているのではないかということを示唆する結果を得たため、今年度は組み換え済みV_H遺伝子を挿入したIgH遺伝子座(IgH^<T15i>)をヘテロに持ち、K鎖をトランスジーンとして持つ、IL-7受容体欠損マウスに、さらにB細胞の生存を延長させるbcl-2をトランスジーンとして持つ多重変異マウスを作成することを試みた。しかしながら、このように多数の変異を有する個体を得ることには予想以上の困難が伴い、bcl-2遺伝子の効果を検証するに十分なデータを得ることが出来なかった。一方、本年度はまた異なる視点からB細胞の遺伝子組み換え調節機構の制御について研究を開始した。すなわち、転写因子インターフェロン制御因子(IRF-2)を欠損するマウスでは、加齢とともにB細胞数が減少する事を発見した。この減少は、骨髄におけるB細胞の産生の減少によることが、加齢IRF-2欠損マウス骨髄中では、プレB細胞がほとんど全く見られないことから明らかである。一方、I型インターフェロン(IFN)によってB細胞の初期分化が阻害されることが知られている。IRF-2欠損マウスでは、I型IFNの誘導物質であるポリI:Cを投与することによって引き起こされる一過性のB細胞減少が、野生型マウスとは異なり遷延することから、IRF-2の欠損によってI型IFNの作用が昂進すること、すなわちIRF-2は例えばウイルス感染時などに産生されるI型IFNによる細胞分化抑制からB細胞を防御しているのではないかと考えられる。
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