本研究は、ごく基本的な手話について、その用法の実態を調べて規則化し、切実になりつつある手話学習のための効率的教材を、実用的側面から開発する試みである。初年度および2年目の本年度までに、 1.手話辞典から「もっとも基本的な手話」約100語程度を選定し、それらについて、対応する日本語としての基本度を、各種基本語彙表および小学校での実地調査によって確認した。 2.選定した手話語彙について、実際に使用されている手話との地域差の検討を行ない、使用手話に地域差はあるが、通じない語彙は少ないことを確かめた。 3.作成すべき手話用例文の長さについての検討の1つとして、手話単語の無作為系列の直後再生数を、健聴の手話話者と、聾学校の高等部・専攻科生徒について調べ、4〜5語を大きく越えると、文の記憶に大きな負担がかかることを見いだした。 これらの検討を踏まえて、次の2つの作業を継続して進めつつある。 1.で選定した手話を組み合わせて教材用の手話文例を作成し、熟逹した手話使用者での表現をVTR記録したものを他の手話使用者らに見てもらって、表現の妥当性の確認や修正を行いながらその数を増やし、さらに、より広い用例の収集に努めている。 5.確認された記録を、単語毎にフレームを切り出してパソコンに取り込み、トレースして線画化し、用例分析のために手話名と文番号で検索できる形でメモリに蓄積する作業を引き続き進めている。 さらに、手話学習を希望する年齢範囲が年少児やその親・教師まで広がりつつある傾向を重視して、上記の基本語彙が、成人の福祉領域を主な対象としていることから、聴覚障害家庭での手指言語の使用実態を調べ、それらの語彙についても検討することにして、その作業を急いでいる。
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