本年度は、主に調査に向けた準備に勢力を注いだが、数度にわたる東京都庁への資料収集、研究者との交流、学生の訓練を兼ねた夏季集中の勉強会等の成果として、今後研究を進める上での重要な知見の発見があった。その主なものは以下のとおりである。(1)マスメディアが小規模な噂を大規模な流言にしてしまう、という現象が近年みられること。(2)流言のカタルシス作用を評価する立場からすれば、流言を抑制することよりも管理することが重要であるということ。(3)解釈流言は事件の起きた場所よりも遠い場所で発生しやすいと考えられること。(4)都市的環境を細分化することによって、地域性と流言の相関関係がより明確になるかも知れない、ということ。 こうした知見の上に、2月26日と27日に、大阪府堺市の中学校を対象に聞き取り調査を行った。フィールドの選択理由は以下のとおりである。(1)堺市では1996年7月病原性大腸菌O-157による食中毒事件が発生し、多数の被害者が出たが、同時にそれをめぐってさまざまな噂が発生したと報じられていること。(2)先行研究によれば、流言の量は、事の重要性と曖昧さの積に比例する、といわれるが、結局感染源が特定出来なかったO-157事件は、この条件に極めて合致すると考えられ、今後も流言発生の可能性があること。(3)別の先行研究や近年の傾向によれば、流言は若者が集まる場所で生まれることが多く、中学校に焦点を絞ることが妥当であること。 今回は、事件後1年を迎える7月に生徒対象の調査を行うことを前提に、教員対象のパイロット調査を実施した。結果は現在集計中であるが、それをもとに、来年度本調査を企画したいと考えている。
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