当初、本研究では、 I.ヨーロッパを発祥とする「社会的経済」の概念を日本の文脈の中で比較・再解釈する理論的試み、 II.日本における「社会的経済」の理論的・実践的広がりの把握、 という二点を計画したが、結果として今年度は理論的研究に先行して、長野県内のフィールドワーク-すなわち上記のII-を重点的におこなった。 主な対象は、 (1)「住民立」による文化施設の建設・運営に関する参与的観察(「平和と手仕事の館、民芸館」)、 (2)高齢者による暮らしと仕事の協同化事業(長野県高齢者協同組合)に関する参与的観察、 (3)農産物加工を中心とする農村女性の仕事おこし(佐久地域農協婦人部のまごころ市)に関するヒアリング調査の三つとした。 「文化」と「福祉」、いずれも経済効率からすれば「不採算部門」とされるこれらの取り組みにおいて、「運営」や「経営」にどのようなオルターナティヴが存在するかを検討してきた。その結果、第一に意思決定の過程、第二に資金提供と権限の関係、第三に人的ネットワークの広がり、第四に市場に対する距離のとり方、第五に事業展望の描き方(=規模拡大に対する禁欲)、第六に雇用労働に対する批判的視点、第七に環境や廃棄に着目し、または社会的弱者の立場にたった事業展開、第八に「当事者」に対する尊重などの点にNPO固有の共通的特徴が確認された。 なお、今後の課題としては、ヨーロッパにおける「社会的経済」「非営利」の理論的位置づけ、および日本におけるそれらの受容と変容過程の理論的把握が挙げられる。むろん、県内フィールドワークの続行と事例の蓄積も急務とされよう。
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